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「所長…やばいっすよ」 「は?」 「これやばいっすって」 「どこら辺が…やばいんだ?」 「どこらへんて…全体的にやばすぎます」 会議室にいる全員の視線が俺に注がれる。 シーンとした空気が広がる・・・ 「所長、森口はかっこいいって言いたいみたいです」 「は?」 「森口君、会議なんだからきちんとしゃべりなさいよねっ」 ベテランの今井女史が眉毛を吊り上げてたしなめても森口はどこ吹く風だ。 「いやだって、こんなやばいの僕見たことないです、さすがKENJI YAMASITAです・・・かっけぇっす」 「所長・・・すみません、あとで叱っときます」 「いや・・・そんなことはいいから、そうか・・・かっこいいとかいうことをやばいっていうのか?」 「まぁおいしいとかそんな時にも使うみたいですがね」今井女史が苦々しげに付け加える。 「言葉は生き物だな…若い子はどんどん言葉を操るんだな」 「森口くん、あんたほんとそんな言葉ばっかり使ってたらますますバカになるわよ」 「はい・・・すんませ〜ん」 「す・み・ま・せ・ん」 「はい・・すみません」 「よしっとりあえず、若い人の視点からもこれはどうやら「やばい」くらいいいものだそうだから、この案で行こう!」 「はいっ」 会議が終わり、全員が部屋を出てそれぞれの持ち場に行く。 一人になって、大きな窓から空を見上げ先週末のことを思い返す。 「あなたが大好きです」 こんなにもストレートな愛をぶつけられたのは…何年振りだろう・・・ 妻を亡くして五年・・・本当にがむしゃらに仕事をしてきた。 自分がまた他のだれかと恋をするとか考えたこともなかった。 そういうことはもう、終わったものだと思っていた。 でも、彼女はまっすぐに俺の目を見つめてそう言ってくれた。 答えるわけにはいかない・・・彼女はまだ若く、そして美しく、これから光輝くような未来が待っているのに、わざわざこんなおじさんと・・しかも高校生の息子がいるようなおじさんと恋をしなくてもいくらでも男が寄ってくるのだから・・・・彼女のためにも返事は出来ないな・・と考えていた。 コンコン 「どうぞ」 「所長先ほどは・・すみません」 今井女史が森口をつまんでやってきた。 「なんだ、そんなこといいんだ。そんなことより森口君、S市から依頼が来ていた公園の件、君がいったんやってみないか?」 「えええええ?まじっすか?」 「あんたまたそんな口のきき方っ」 今井女史が母親のように口を出す。 「君はうちの面接の時に公園の設計をしたいって言ってたね」 「はいっおれ…公園マニアなんで・・・ぜひっぜひっやらせてください」 「そうか・・・大人も子供も楽しめて、安全で心安らぐ場所を君のデザインで一度上げてくれ」 「はいっ」 「今井君・・・・ということなんで、悪いが・・銀座のリ・モードをしてもらっているけど、森口君のフォローもしてやってくれ」 「せんぱいっよろしくお願いしまっすっ僕超マッスルで頑張りますから」 「・・・・・はぁ・・・・」 「たのむよ今井君」 「所長がそうおっしゃるなら・・・・・・・あんたっちょっと私のお肌のためにも余計なストレスかけないでよねっ」 「こえ〜・・先輩大丈夫っすよっとても40歳には見えないっすから」 「・・・・・・・(ごおぉぉぉぉぉおおお)あたしはまだ39ですっ」 「・・・すんませ〜ん・・・」 「す・み・ま・せ・ん」 「はい、すみません」 「ハハハ、君たちは本当にいいコンビだなぁ」 「ちょっちょっと所長! やめてくださいこんなバカ息子とコンビだなんて」 「ええ〜先輩僕くらいの息子いるんすか?」 「いるわけないでしょっ殺すわよあんた」 「こえ〜・・殺すとか言っちゃいけませんよ〜」 「うっさいっ」 「じゃあ二人ともよろしく」 「あっはいっ」 「はいっ」 二人が出ていき、また会議室に一人になった。 携帯を開いたり閉じたり・・・(何をグズグズしているんだ・・・さっさと彼女に電話して・・・断れ・・) 頭では分かっている・・・だけど、本当は彼女に初めて会った時から・・心が惹かれていた。 妻が亡くなってから初めてやった仕事。地元の美術館だった。 客寄せパンダのような派手派手しい作品は置いていないが、国内外の良い秀作や地元ゆかりの画家の作品を展示し、まずまずの集客能力がある美術館だ。 開館一周年の記念祭に呼ばれた俺はここで働く彼女と初めて会った。 薄茶色の大きく美しい瞳をした女の子はものすごく緊張しながら、俺に来賓の名札をつけるためにプルプル震える手で鼻の頭に汗をかいていた。 「しつれいします・・・あれ・・・おかしい・・・すみません・・・すみません・・・えいっ」 「いてっ」 「きゃあ・・・・すみません・・・むっ胸刺しましたね・・・すみませんっ出血してたらどうしよう…服っ服脱いでくださいっ」 「いや・・・大丈夫ですから、ほんとに」 「いや、でも感染症とかで・・・なんかなったら・・・」 「そんなやわではありませんから・・・ほんとに大丈夫ですから」 「すみません・・・・」 「これ・・自分でつけますから」 落ち込んでいる彼女がかわいそうで、名札をさっさと自分でつけて 「はい、大丈夫」 と見せたら 「ほんとにすみません・・・・あの・・・山下先生って、ここを建築デザインされた山下先生ですか?」 「先生は余計ですけど・・はい、ここを設計しました山下です。」 「あぁ・・・わたし・・・いつかお礼を言いたいと思っていたんです」 「お礼?」 「わたし・・先生のおかげで初出勤初逃亡の恥をさらさずに済んだんです」 「初出勤初逃亡?」 ピンポンパンポーン「記念祭に御出席の来賓の皆様に申し上げます」 「あっいけない、先生、それでは御案内いたします」 「ああ・・」 結局その時はそのまま祝賀パーティーに流れて彼女に会うことはなかった。 そんなことも忘れかけた1年後・・・彼女がうちの社員募集に応募してきたのだった。 「浅海 栞さんていうんだ・・・・」 「はいっ」 「あの美術館はやめたの?」 「もともとバイトで入ってまして、今度職員さんが正式に入ることになりまして」 「あぁそうなの」 「あのぅ・・私では無理でしょうか?」 「うち…時間とか不規則だし結構仕事量も多いけど・・大丈夫かな?」 「はいっ剣道で鍛えた体力と根性はあります!」 「じゃあ研修期間1カ月間、雇用はそのあと双方納得すればということで、あと給与とか休みとか詳しいことは今井さんに聞いて」 「はいっありがとうございます」 そうやって彼女は僕の事務所に入り、そして先日まで勤めてくれていた。 先週末に彼女の送別会をし、二次会でオレは今井女史に次の店の軍資金を渡して先に帰った。 タクシー乗り場に向かう俺を「所長〜」と彼女が呼びとめた。 携帯か何か忘れ物でもしたのかとポケットを探る・・・ 彼女は俺のもとへなだれ込むように走ってきて赤い頬でこういった。 「所長、私・・所長のことが大好きです」 送別会の高揚感で、はずみで言ったのかと思った。 だけど、彼女は息を整え、俺を真正面から見つめたままでもう一度 「あなたが大好きです」と言った。 つづく・・・ |
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