|
彼女がどうしても顔を見て話をしたいから・・・と半ば強引に彼女指定のバーで待ち合わせをすることになった。 何度か行ったことのあるその店は、地下に入口があって、ものすごい精巧な葡萄のカービングが施された重厚で品のあるドアから威圧感を感じるのか、若い人が余り入ってこないので大人の客がゆったりとした時間を過ごせる。 彼女が気を使ってこういう店を選んでくれたことに少しホッとしている。 少し重いドアを開けるとカウンターの一番端に彼女がいた。 俺を見つけて胸の下で小さく手を振る。 「いつ帰ってきたんだ?」 「昨日の朝つきました」 「さっすが若いから元気だな」 「恋をしているから元気なんですよ」 ・・・・やりかえされた。 「それで・・・・」 「所長・・・私にご褒美ください」 「見つけたんだ・・・・」 「はい…これが証拠写真」 彼女が差し出した写真には、汗で化粧も取れて子供みたいな顔になりながら、レンガを指差している彼女が写っていた。 「よくみつけたね・・・」 「3日かかったんです・・・チャペルは広いし、レンガはいろんな所に使われているし・・・・とうとう最後は神頼みでした」 「神頼み?」 「祭壇まで行って夕日に向かって祈ったんです…神様どうか私に見つけさせて・・って」 「・・・・」 「そしたら、ふ・・・とひらめいたんですよ・・・所長の気持ちになって・・・設置する時に・・どこにするかなって」 「それでわかったのか」 「それと…もう一つわかったことがありました」 「なにが?_」 「そのレンガは・・亡くなられた奥様へのラブレターだって」 「え?」 「だから息子さんの名前が先なんじゃないかな?って・・・天国から見えるように書いているのかな・・・って・・・これは答えなくていいです。」 「・・・それで…ご褒美は何がいいの?」 わざとふざけた感じて俺は言った 「・・・所長が、もしも私のことを嫌いでなかったら・・・私とつき合ってください・・これがご褒美です」 「いや・・・でも・・君、それは前に・・・」 「でも、他に好きな方もいないし、私のことは嫌いでないっておっしゃいましたよね?」 「まぁ・・・そうだけど・・」 「じゃあ・・それがご褒美です」 「あのね、何度も言うようだけど、俺は45歳で」 「知ってます」 「子供もいて・・・」 「知ってます」 「・・・・・・・・・いつもそんな感じなのか?」 「なにがですか?」 「・・・・・・・猪突猛進っていうか・・・」 「私・・・たぶん大人っぽい恋愛ができないんですよ…中学生・・いえ、小学生レベルでしょ?」 「いや、いまどきの若い人はみんなそうなのかなと思って・・」 「父がすごく厳しい人で、学生の時はさっぱりでしたから・・・だから恋愛力が低いんです私・・・好きになったら好きですっていうしかわからないんですよ」 「・・・・・・」 「ね、所長、じゃあ試しに付き合って、双方納得の上で続けるかどうか決めましょうよ」 彼女が面接を受けに来た時の俺の口調を真似て提案するのがおかしくて 「まるで就職みたいだな」と笑った。 「でしょ?仕事だって恋愛だって、チャレンジしないとわかんないもんですからね」といたずらな瞳で俺を睨んで 「だからオッケーですよね?」と笑った。 少しの沈黙の後、 「もうお付き合いしてるんだからこんなことしてもいいんですよね〜」と 彼女は俺の手を握ってカウンターの下に隠した。 ただ手をつないでいるだけなのにこんなにも胸がドキドキする・・・高校生みたいだな・・と自分で可笑しくなる。 「あっそれから・・・・」急に普通のトーンでしゃべりだす。 「?」 「所長がよくいかれているご近所の店…なんとかレストラン?・・あそこでウェイトレス募集していたから申し込んできました」 「は?」 「だって私無職ですから・・そしたら金曜から来てくださいって言われました」 「ナミレスに行くの?」 「はい、あのマスター面白い方ですよね〜、張り紙もすごくユニークで・・・美人限定って書いてるかと思えば詳細は容姿年齢問わずって、だから思い切って受けたら受かっちゃいました」 「今週の金曜からいくのか?」 「はい」 「ユーサク君にも会えるし・・なんか嬉しいな」 「あ・・・あのさ・・・・」 「はい?」 「あの・・・俺たちのことは・・・」 「わかってます、内緒ですよね?」 「ああ・・・」 とうとう今日は金曜日だ・・・・先に何気にユーサクに言っておくか・・・いや、俺は何気にとかいうことが絶対にできるタイプではない・・・・ 第一昨日、マスターに何気に彼女のことを言った時も速攻でばれた。 「そんなのわかるに決まってんだろっ 履歴書におっさんの事務所の名前書いてんだから・・・はっは〜ん・・これが彼女か〜と舐めるように見させていただきましたから」 「いやらしい言い方をするな」 「なんだよっ見るくらいいいじゃねーかっ減るもんじゃなしっドケチ親父」 「うるさいっ」 「で、ユーサクにはどーいうのさ」 「・・・まだ・・しばらく内緒で・・・」 「やべーな」 「なにが?」 「あいつも親父に似て美人好きだから栞さんにくらくら〜っと来ちゃうんじゃねーのか?」 「ユーサクが?浅海君に?おいおい、10歳以上年が上だぞ」 「なにいってんだかっ自分は17歳年齢差があるくせに」 「それをいうなよ・・・いや・・・ユーサクはまだ子供だし・・・」 「はっはっはっ知らぬは親父ばかりなり〜」 「なんだよそれ?なんか知ってんのか?」 「カリスマ相談員の私はしゃこ貝よりも口が堅うございますからね〜」 「・・・・そういえば・・・こんど・・・お前が好きな女優の・・なんだっけ・・・」 「愛奈ちゃんか?」 「そうそうその子、その子と雑誌の取材で対談することになってさぁ」 「・・・・私は砂場のアワビでございます・・・蓋するものは何もございません」 「で、ユーサクは・・・付き合った女の子とかいるのか?」 「いや・・具体的には」 「なんだよっ何も知らないのかよっ」 「いやいやいやいや・・でもさっあいつも17歳なんだから、そりゃああれだろ?いろいろとな・・・」 「まぁ別に彼女ができるとかどうとかはかまわないんだけど、親が17も若い女の人とつき合っているのはやっぱり嫌なもんだろうな」 「ん〜・・それよりも・・・オフクロさんのことがな・・・まだ引っ掛かってんじゃねーの」 「そうか・・・あいつはお前にそんなことも言うんだな」 「まっあっしはアニキみたいなもんだからさ」 「俺のところは両方の両親が早く死んでいたから、あいつが逝っちまってからすぐに二人きりの生活になっただろ? クッションが何もなかったんだよ・・・母親がいなくなった穴を埋めるなんて出来はしないけど・・・でも親とは違う種類の愛情があればよかったのに、それもなかったんだよ」 「おっさんは仕事に行っちゃうしな」 「ん・・・」 「俺は俺にできるやり方であいつを食わせて一人前にするしかないと思って死に物狂いで仕事したよ・・・」 「父子家庭にはツメテーからなぁ日本は・・・」 「でも・・子供はさ・・やわらかい愛情もないとだめなんだよな・・・あいつにはかわいそうなことをしたと思う・・中1なんて全然子供だったのにな・・・」 「お互いが生き延びるために、その時に自分にできることをしたと・・・外から見てたら思うけどなぁ」 「今でも正解なんてわからないよ・・ただおもうのは、ユーサクは俺の仕事を嫌っているんだと思うな」 「嫌ってるっちゅうか・・・まぁ…ヤキモチっちゅうかな」 「いや、憎んでいるといってもいいと思うよ」 「あいつがもう一皮むけたらわかんだけどな・・・まっそのうちわかるさ」 「ところで、浅海君のことはユーサクには・・」 「わかってるよっシーっだろ?みなまで言うなっ大船に乗ったつもりでカリスマ相談員の俺様に任せておけば大丈夫だからっ」 「・・・・その船が泥の船でないことを祈るよ・・・」 そういうやり取りがあったから、一応は気を配ってはくれるだろうが・・奴だけは安心はできない。 なんと言っても砂場のあわびだからな。 つづく |
| << 前記事(2008/10/14) | トップへ | 後記事(2008/10/16)>> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
おはようございます。 |
ちゅら風・ちゅら海・ちゅら男 2008/10/26 07:13 |
| << 前記事(2008/10/14) | トップへ | 後記事(2008/10/16)>> |